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福島地方裁判所 昭和33年(行)10号 判決

原告 有限会社菊屋

被告 福島税務署長

主文

一、原告の被告が昭和三三年八月二二日附でなした原告に対する昭和三〇年四月一日より昭和三一年三月三一日に至る事業年度の所得金額を金七四〇、七〇〇円とする再更正決定の取消しを求める訴はこれを却下する。

二、原告その余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は(一)被告が原告に対し昭和三一年三月六日附でなした原告の昭和二九年四月一日より昭和三〇年三月三一日に至る事業年度の所得金額を金七一一、三〇〇円とする更正決定のうち、当該審査決定(昭和三三年八月二二日附仙台国税局長決定)で取消された残額金六〇六、六〇〇円の部分を取消す。(二)被告が原告に対し昭和三三年八月二二日附でなした原告の昭和三〇年四月一日より昭和三一年三月三一日に至る事業年度の所得金額を金七四〇、七〇〇円とする再更正決定を取消す。(三)訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、請求の原因として、

一、原告は菓子類の製造販売をいとなむ法人であるが、被告に対し

(一)  昭和三〇年五月三〇日その昭和二九年四月一日より昭和三〇年三月三一日にいたる事業年度における所得金額につき、これを金四六五、六〇〇円として申告したところ、被告は昭和三一年三月六日これを金七一一、三〇〇円とする旨の更正決定をなし、その頃その旨通知があつた。そこで原告は昭和三一年四月四日被告に再調査請求をしたが、昭和三一年八月二二日棄却されたため、更に同年九月一七日仙台国税局長に対し審査請求をなしたところ昭和三三年八月二二日金六〇六、六〇〇円と所得金額を変更する決定があつた。

(二)  また昭和三一年五月二三日その昭和三〇年四月一日より昭和三一年三月三一日にいたる事業年度における所得金額につき、これを金四五一、二〇〇円として申告したところ、被告は昭和三一年九月一七日これを金七一二、八〇〇円とする旨の更正決定をなし、その頃通知は原告に到達した。原告はこれに不服であつたから昭和三一年一〇月一五日再調査請求をなしたが、同年一二月一〇日棄却の決定がなされたので、更に昭和三二年一月九日仙台国税局長に対し審査請求をなしたところ、昭和三三年八月二二日棄却の審査決定があつたが、同日附で被告はこれを金七四〇、七〇〇円とする旨の再更正決定をなし、その頃通知は原告に到達した。

二、しかしながら原告の右各年度の所得額は原告の申告通りであつて被告の決定はいずれも事実を誤認した違法なものであるから取消を免れない。

と述べ、被告の主張に対し次のとおり述べた。

一、第五の一の(一)ないし(三)、同じく二の(一)ないし(三)ならびに別紙各表に示された事実はすべてこれを認める。

二、第五の一の(四)について

原告が購入した鏡は二個であつて、これを一個あてについてみれば製作価格一万円未満であるから損金に計上してよい。

三、第五の二の(四)について

同項主張の風呂場は従業員の厚生用のためであり、会社の営業のための支出として会社の損金に算入するのは当然である。

四、第五の一の(五)同じく二の(五)について

原告の自家商品使用分たる広告宣伝費、交際費、厚生費等はその営業規模に比し決して多額ではない。しかしてその諸費用に関しては私的責任の企業としてその経営者の任意に決し得るところであつて全額損金に算入すべきである。

被告は右自家商品使用に代表者個人の消費が含まれていると主張するが、かゝる事実はない、ちなみに代表者家族の消費は昭和二九年度において金七、三九五円を昭和三〇年度において金七五、二八九円をいずれも売上として計上している。

五、第五の一の(六)同じく二の(六)について

原告が店内に客席を設けその場で飲食すること等を行つていないことは認めるが、両年度における各図書費はすべて原告の営業のため購入されたものであつて、これにより市場の動向、物価の趨勢、広告の巧拙等経済の状勢についての知識を得たものであり、図書費にいくばくの金員を支出するかは企業者の任意に決し得るところであつて別表二、四の図書費は全部損金に算入すべきである。

六、第五の一の(七)同じく二の(七)について

原告が法人税法上に所謂同族会社であり、昭和二八事業年度において申告後被告から帳簿に記帳もれの売上金九六六、〇〇〇円を益金に加算され、昭和二九年七月二〇日その所得金額を更正されたが、これに対しては原告が何らの異議訴願等を申立ることなく確定したこと、昭和二九年度の申告書に添付した財産目録の資産の部に設備費として金六〇万円を計上記載したこと、昭和二九年度ならびに昭和三〇年度における原告の年間借入金に対する利息の平均の日歩が金二銭七厘ならびに二銭五厘であること等は認めるが、その余の事実を否認する。右六〇万円の記載は税務署員の指導によりやむなく記載しただけのものであつて、金六〇万円を仮払した事実はない。

七、第五の一の(八)同じく二の(八)について

原告の営業規模・資本金・従業員数・役員・売上金額・従業員の給料額等は認めるが、代表取締役菊田善助の報酬中月額三万円を越える部分を利益処分による賞与と認定することは不当である。代表者は斯業における熟達経験者として原告会社における活躍状況企業努力等また企業の危険性等を考えれば一ケ月金四万円の給料は安きに失するも決して高額ではあり得ない。

八、原告が被告のなした再更正決定に対し再調査の請求ないし審査の請求をしなかつたことは認める。

被告指定代理人らは

第一、本案前の申立として原告の昭和三〇年四月一日より昭和三一年三月三一日にいたる事業年度の所得金額を金七四〇、七〇〇円とした再更正決定の取消を求める訴を却下するとの判決を求め、その理由として原告の昭和三〇年四月一日より昭和三一年三月三一日にいたる事業年度における所得金額を金七四〇、七〇〇円とした再更正決定の取消を求める訴については原告は右処分につき法人税法第三四条第三五条による再調査請求ないし審査請求をしていないし、更正決定についての取消訴訟継続中の再更正でもないから訴願等を経ないでなされたものである。よつて本訴は同法第三七条所定の要件を欠く不適法なものであつて却下を免れない。

第二、請求の趣旨に対し、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因第一項の事実はいずれも認めるが、その余を否認する。即ち

一、昭和二九年度更正決定について

原告会社の昭和二九年四月一日より昭和三〇年三月三一日にいたる事業年度(以下単に「昭和二九年度」という)の申告所得金額はその主張するように金四六五、六〇〇円であるが、次の各理由により所得金額は金六〇六、六〇〇円を超えることは明かであるから、被告の更正決定は適法である(当初の更正所得金額は金七一一、三〇〇円であるが、仙台国税局長の審査決定においてその一部を取消し所得金額を金六〇六、六〇〇円としたものである)。

(一)  原告は受取利息として金四、九〇〇円を益金に計上しているが、金一〇、六四七円が正しく従つて金五、七四七円が計上漏れになつている。

(二)  原告が損金に計上した報酬金六四、〇〇〇円は全額福島税務経理指導協会税理士小賀坂代蔵に対するものであるが、そのうち昭和二九年四月二六日記帳の金八、〇〇〇円は昭和二八年一二月および昭和二九年一月の二ケ月分また昭和二九年五月二六日記帳の金八、〇〇〇円は同年二月、三月の二ケ月分でありいずれも前事業年度に帰属すべき損金であるから右計金一六、〇〇〇円は係争事業年度の損金から除算すべきものである。

(三)  原告が損金に計上した給料中昭和二九年一二月に代表取締役菊田善助および取締役菊田伝吉に支給した賞与各金六、〇〇〇円計金一二、〇〇〇円は利益処分によるべきものであつて損金より除算すべきものである。

(四)  原告が広告宣伝費として損金に計上した金五八七、三七四円中には昭和三〇年二月一六日に福島市置賜町一〇番地津野田鏡店から購入した鏡金一七、〇〇〇円およびその取付料金一、七〇〇円計金一八、七〇〇円が含まれている。しかし法人の所得計算においては固定資産の取得に要した金額は法人税法施行細則(以下単に「細則」という)第七条に定める耐用年数一年未満の固定資産または取得価額もしくは製作価額金一万円未満の固定資産を除き、いわゆる資本的支出として固定資産とし財産目録に計上すべきものであつて損金に計算することは許されない。

そこで細則第六条の規定により全額を減価償却したものとみなし細則第三条の三の規定により計算した償却範囲額の金七、七九一円をこえる金一〇、九〇九円は細則第三条の規定により損金から除算すべきものである。

(五)  原告は自家商品の使用分として別紙一の通り広告宣伝費に金一八七、八八五円、交際費に金一二〇、九二五円、厚生費に金二八、六八〇円を計上している。しかしながら、これらの自家商品使用関係の記帳は極めて不完全で、単に月日順に金額を羅列したにすぎず、各科目の区分等は根基のないものであつて、何の目的のために誰に対して使用したものか全く不明のものである。また他に代表者家族の消費等の記帳は全くないが、これらの者が直接に食用乃至個人の交際における贈答等に使用された金額が相当あることはたやすく推認できるところで記帳自体その真実を疑うに十分で到底その全額が営業目的に奉仕したものとは考えられない。

更にまた別表七の通り類似法人の自家商品の使用分をふくむ広告宣伝費および交際費と比べる時原告の自家商品の使用はその営業規模に比してあまりにも過大であるから右諸事情を勘案して右の広告宣伝費および交際費の七〇パーセントならびに厚生費の全額を営業上必要な損金と認め、その残余は損金とならないものと推計し金九二、六四三円を損金より除算すべきである。

(六)  原告は図書費として金二〇、五三〇円を損金に計上しており、その内訳は別表二の通りであるが、原告は菓子類の販売業を営むものであつて、特に店内に客席を設け、その場所において飲食することは行つていないのであるから顧客の接待用もしくは原告の経営について別表二のうち×印の図書類は必要でないことが明かである。よつて右図書の購入費金一一、三四〇円は代表者個人の私的なものとして損金より除算すべきである。

(七)  原告は、法人税法第七条の二による同族会社であるが、代表取締役菊田善助に対し、昭和二九年度の期間中原告会社の資金九六六、〇〇〇円を無償で仮払の上利用せしめている。

すなわち、原告が係争事業年度の直前事業年度において、入金の事実が存するにかかわらずその売上金の一部を正規の帳簿に記帳しなかつたため、被告はその金額九六六、〇〇〇円を益金に加算し、昭和二九年七月二〇日その所得金額を更正しているが、その更正決定に対しては原告は何らの異議、訴願は行わず確定している。なおまた昭和二九年度の申告書に添付した財産目録の資産の部に設備費金六〇〇、〇〇〇円を計上しその摘要欄に「前期決算仮払計上分」と記載していることは右仮払金のうち六〇〇、〇〇〇円について記帳整理したもので右仮払金の存在を示すに十分である。しかるにこの計上漏れの金九六六、〇〇〇円による同額の資金は現実に原告の営業上の諸経費の支払にあてた事実は勿論、その資金を内部に留保している事実もない。従つて原告がその代表者に右資金を仮払して利用せしめているとみるほかはない。しかして右に対しては利息を徴していないので右計算を否認し、右仮払金に対して原告の借入金利息の平均日歩二銭七厘によつて計算した金九五、一九九円を原告の益金に加算すべきである。

原告主張にかゝる第三の六の右六〇万円の記載は税務署員の指導によりやむなく記載しただけのものであつて、金六〇万円の仮払の事実はない旨の主張は自白の撤回であるから異議がある。

(八)  原告会社の代表取締役菊田善助に対する報酬は、昭和二九年一二月までは月額金三〇、〇〇〇円のところ、昭和二九年一二月二八日の臨時社員総会(出席社員二名)において昭和三〇年一月以降月額金四〇、〇〇〇円とすることに決議し、昭和三〇年一月以降月額金四〇、〇〇〇円を支給している。

しかしながらこれはつぎの事実を総合するに高額と判断され、これでは原告の所得金額を減少させ法人税の負担を不当に減少させる結果になるので、昭和三〇年一月以降の増額を否認し報酬月額を金三〇、〇〇〇円と計算し、これを超えて支給した昭和三〇年一月から三月まで各月金一〇、〇〇〇円計金三〇、〇〇〇円は利益処分による賞与として処理すべきである。

(1)  原告会社は福島市中町二九番地に本店を有する資本金二〇、〇〇〇円の有限会社であり、従業員は一〇名程度、昭和二九年度の売上金額は金一五、六一八、八一六円であるから、その営業規模は、いわゆる中小企業である。

(2)  原告の取締役および使用人の報酬給料の支給明細は別紙三の通りであつて、昭和二九年度の昇給は代表者およびその家族のみであるし、また代表取締役の三男省三(昭和七年四月九日生)の初任給が金八、〇〇〇円であり、代表者ならびにその同族従業員のみが他と対比して高額の給与を受けている。

(3)  原告は実質的には菊田善助の個人会社であつて、代表取締役の報酬増額を決議した昭和二九年一二月二八日の臨時社員総会は、代表取締役菊田善助とその長男伝吉の二名のみの出席により、代表者の意思通りに決議される状況であつた。

(4)  原告と同業種の類似法人の当該年度における代表者報酬額は別表七の通りであるが、それらに比較して原告の代表者報酬は極めて高額である。

二、昭和三〇年度再更正決定について

原告会社の昭和三〇年四月一日より昭和三一年三月三一日にいたる事業年度(以下単に「昭和三〇年度」という)の所得金額はその主張によれば金五〇六、五八三円であるが、次の各理由により所得金額は金七四〇、七〇〇円をこえることは明かであり、その所得金額を金七四〇、七〇〇円とした再更正決定には何ら事実誤認はなく適法である(当初の更正所得金額は金七一二、八〇〇円であるが、昭和三三年八月二二日金七四〇、七〇〇円と再更正したものである)。

(一)  原告は価格変動損として金四九、四〇〇円を損金に計上し、これを価格変動準備金勘定に繰入れ、また貸倒金として金九九〇円を損金に計上し、これを貸倒準備金勘定に繰入れている。しかしながら価格変動準備金勘定ならびに貸倒準備金勘定の繰入れは前者は旧租税特別措置法第五条の一〇第一項、後者は法人税法施行規則第一四条第一項の各規定により何れも青色申告書を提出する法人に限つて許されるものである。ところで原告は昭和二八年八月三一日に昭和二七年以降青色申告書提出の承認を取消され、その後承認を受けていないから、右各金額は何れも損金から除算すべきものである。

(二)  原告が昭和三一年三月三一日仕入に計上した安久都商店からの仕入金四七、九七〇円のうち金四、三八〇円は昭和三一年四月七日の仕入であつて、昭和三〇年度の損金に算入すべきものでないから損金から除算しなければならない。

(三)  原告が広告費として損金に計上した昭和三〇年九月二一日の店頭金文字看板代金一八、〇〇〇円および消耗品として損金に計上した昭和三一年一月二七日の特製サワリ(赤アンコ鍋)金一二、〇〇〇円は、前述一の(四)主張と同一の理由により、同上主張の計算方法により計算した償却範囲超過額前者については金一五、三七五円後者については金一一、五七四円は何れも損金から除算すべきものである。

(四)  原告が損金に計上した修繕費中昭和三一年三月二六日大岩石材土建工業所に支払つた長洲風呂据付工事内金六、〇〇〇円は代表取締役菊田善助の私宅の風呂場改修工事費金一二、〇〇〇円の内金であり、原告の営業と関係なく代表者が個人として負担すべきものであるから損金から除算すべきである。

(五)  原告は自家商品の使用分として別紙四の通り広告宣伝費に金一八二、四一四円、交際費に金一七五、六三五円、厚生費に金四四、九三〇円を計上しているが、前述一の(五)項主張と同様の理由、計算により、右広告宣伝費および交際費の七〇パーセントならびに厚生費の全額のみを営業上必要な損金と認め、その残余金一〇七、四一四円は損金より除算すべきである。

(六)  原告は図書費として金二一、七七七円を計上しており、その内訳は別表五の通りであるが、前述一の(六)主張と同様の理由で別紙五のうち×印図書購入費金一二、四八一円は代表者個人の私的なものとして損金より除算すべきである。

(七)  原告は所謂同族会社であり、昭和二九年から引続き代表取締役に対し、その資金九六六、〇〇〇円を無償で仮払利用せしめていることは前述一の(七)項主張の通りであるが右主張と同様の理由により右利息を徴していない計算を否認し、当該仮払金に対し、昭和三〇年度の原告の借入金利息の平均、日歩金二銭五厘によつて計算した金八八、三八九円は原告の益金として加算すべきである。

(八)  原告の代表取締役菊田善助に対する報酬は月額四〇、〇〇〇円であり同年度の原告役員使用人の報酬給料支払状況は別表六の通りであるが、これは前述一の(八)主張と同様の理由で否認し報酬月額を金三〇、〇〇〇円と計算しこれを超えて支給した計金一二〇、〇〇〇円(毎月一〇、〇〇〇円)は利益処分による賞与とすべきである。

と述べた。

(証拠省略)

理由

第一、原告の昭和二九年度における更正決定の取消を求める請求について。

一、当事者間に争いのない事実は次のとおりである。

(一)  原告が昭和二九事業年度の所得金額につき、これを金四六五、六〇〇円として申告したところ、被告は金七一一、三〇〇円とする旨の更正決定をして通告したので、原告は再調査の請求をしたがこれを棄却されたため、原告は仙台国税局長に対し審査請求をしたところ、その審査決定において更正所得金額の一部を取消し、所得金額は金六〇六、六〇〇円とされたこと。

(二)  原告が係争年度の所得金額として申告したうち

(1) 受取利息として益金に計上した金四、九〇〇円は金一〇、六四七円が正しく金五、七四七円が計上漏れになつていること。

(2) 原告が福島税務経理指導協会税理士小賀坂代蔵に対する報酬として支払つた金六四、〇〇〇円中には、前事業年度すなわち昭和二八年度における四ケ月分の報酬をも含んでいるから、この分の報酬合計金一六、〇〇〇円は係争事業年度の損金から除算すべきものであること。

(3) 損金に計上した給料中昭和二九年一二月において、代表取締役菊田善助および取締役菊田伝吉に支給した賞与各金六、〇〇〇円(計金一二、〇〇〇円)は利益処分によるべきものであるから、損金より除算すべきものであること。

二、そこで以下各争点につき案ずるに、

(一)  原告が広告宣伝費として損金に計上した金五八七、三七四円中には係争事業年度中の昭和三〇年二月一六日津野田鏡店から購入した鏡代金一七、〇〇〇円およびその取付料金一、七〇〇円計金一八、七〇〇円が含まれていることは当事者間に争がなく原告代表者本人尋問の結果によれば右購入の鏡は二枚であることが認められる。そうだとすると右鏡一枚の取得価額は特段の事情のない限り取付料金を含めても金一〇、〇〇〇円に達しないことが明らかであるから、右二枚の鏡は各々細則第七条に所謂取得価額金一〇、〇〇〇円未満の固定資産に該当し、固定資産の償却額の損金算入については細則による規整を受けないものといわねばならない。従つてこれと異り鏡の取得価額を金一〇、〇〇〇円以上と認定したうえ細則を適用して金一〇、九〇九円を損金から除算すべきものとした被告の決定は失当といわざるを得ない。

(二)  原告が自家商品の使用分として別紙一のとおりの額を広告宣伝費、交際費、厚生費等にそれぞれ計算上していることは当事者間に争いがないところ、被告は右諸経費中広告宣伝費および交際費の各々三〇パーセントを合計した金九二、六四三円は営業上必要な損金と認められないから損金から除算すべきであると主張する。

そして原告代表者本人尋問の結果によつて成立を認め得る甲第三号証の一ないし三によれば、原告が係争年度において使用した自家商品の量が原告主張のとおりであることは一応推認し得られるのではあるが、しかし右奉仕帳の記載は月日順に品目と金額を列挙しているだけであつて、使用の目的や相手方の記載洩れが多いため、それが果して営業上の必要経費であるか否かの資料としては甚だ価値が低いものといわざるを得ないのみならず、成立に争のない甲第一号証の二、証人渡辺武雄の証言に弁論の全趣旨を総合すれば、被告としては前記奉仕帳の記載のみによつては原告の広告宣伝費および交際費等の適正な範囲を認定することができなかつたため、一つには原告会社のような業種の営業を営む者の売上高に対する広告宣伝費および交際費の比率は統計上三パーセントを以て妥当とするところ、原告における右比率は五、四ないし五パーセントに及ぶ高率を占め、その額が金三〇〇、〇〇〇余円に及ぶこと、二つには福島県内における原告と略同規模の類似法人と対比するに、別紙七記載のとおりで、類似法人の交際費および広告宣伝費の総売上金額に対する比率は平均二・二パーセントであるに反し、原告の右比率は前記のとおり異常に高く、これから三〇パーセントを除算したうえで計算しても、なお四、六パーセントの比率を示し他に比しなお高率であること等が認められたので、これらの経緯からみて、原告の自家商品使用分として計上されているもののうち七〇パーセントを広告宣伝費および交際費として認め、厚生費は性質上全額営業上必要な損金と認めこれらの合計金を超える部分を損金より除算したものであつて、これと別紙一および別紙七の記載と対比するときは原告の広告宣伝費および交際費は被告が査定した範囲を以て相当と認められるのである。

(三)  原告が図書費として金二〇、五三〇円を損金に計上し、その内訳が別表二のとおりであること、原告は菓子類の製造販売業を営むものであるが、特に店内に客席を設け、その場所で飲食することを行つていないこと等は当事者間に争いがないところ、被告は右図書費のうち別表二の×印の部分の計金一一、三四〇円は代表者個人の私的な経費として損金より除算すべきものであると主張する。

しかし別表二のうち×印のある図書は大部分新聞であつて、しかも一般大衆を対象とするもののみであるから、該新聞等自体からは原告の営む菓子類製造販売の業務経営上特に必要であるということを推認するには困難である。さらに証人渡辺武雄の証言によれば、原告会社の株主の構成上原告会社は代表者個人の教養に必要な新聞等と会社の営業上必要とする新聞等とが混同されているふしがあることが認められるし、この点に関する原告代表者本人尋問の結果でも一種の交際費として新聞、雑誌等を購入している実情にあるかに窺われるのであるから、結局別表二のうち×印のある図書は損失として計上し得る図書費とは認め難いといわねばならない。しかのみならず、別表二のうち書店名を以て図書費目に計上しているものは到底適正な原告の必要図書費とは認めることはできないから、図書費につき被告のなした決定は相当といわなければならない。

(四)  原告が法人税法上に所謂同族会社であり、昭和二九年七月一〇日昭和二八事業年度における帳簿もれの売上金九六六、〇〇〇円を益金に加算されてその所得金額を更正され、右更正決定に対しては原告が何らの異議訴願等を申立ることなくして確定したこと、本件係争事業年度である昭和二九年度の申告書に添付した財産目録中資産の部に設備費として金六〇〇、〇〇〇円を計上記載したこと等の点は当事者間に争いがない。原告は右財産目録上の金六〇〇、〇〇〇円の記載は税務署員の指導によりやむなく記載したものであつて、金六〇〇、〇〇〇円の仮払の事実はないと主張する(被告は右主張は自白の撤回であるから許されないと主張するが、法人税の確定申告における所要の財産目録等財務諸表上の記載は企業財産の真実の姿が反映さるべきことは当然であるから、財務諸表上の記載は財産関係の現実を推測せしめるものではあるが、それが企業の財産関係自体を表明するものではないのであるから、財務諸表上の記載そのものゝ成立を認めたからといつて、この記載の対象となつた事実関係までも認容したものということができないものというべく、従つて原告は単に財務諸表上の記載自体を認容したにとどまるものと解するのが相当である。本件につきこれをみるに、第一六回準備手続調書において原告が認めたのは、「原告が昭和二九事業年度法人税の確定申告書に添付した貸借対照表中借方の部に計上してある設備費六〇〇、〇〇〇円は仮払金九六六、〇〇〇円のうち六〇〇、〇〇〇円について記帳整理したものであること」という点にあるだけであつて、金六〇〇、〇〇〇円の仮払の事実をも含めて認容したものとみることはできないから、その後の準備手続において原告が右記帳整理の経緯を述べたうえ仮払の事実の存否についての認否を明確にしたことは事実関係を明瞭ならしめる陳述をしたにとどまり、自白の撤回には該らないので被告の異議は採るを得ない)から案ずるに、昭和二八事業年度において、被告が原告の所得金額の申告につき記帳洩れの売上金九六六、〇〇〇円を益金に加算して所得金額を更正したところ、右更正決定が異議なく確定したことは原告の自認するところであるから本件では反証のない限り右仮払金の存在はこれを認めざるを得ない。しかのみならず原告代表者本人尋問の結果によれば、昭和二八年度において、原告会社の代表者個人名義で金五〇万円の銀行預金が存在したので、被告がこの預金を原告の簿外資産として益金に算定したところ、原告においても原告の代表者個人においても異議を述べなかつたことが認められるのであるから、これらの事実と成立に争いのない昭和二九年度の申告書に添付した財産目録中資産の部において設備費金六〇〇、〇〇〇円を計上し、その摘要欄に「前期決算仮払計上分」と記載している事実とを併せ考えると、被告の主張する金九六六、〇〇〇円の仮払金は存在しないとする原告の主張は採用するに由ないものといわねばならない。而して右仮払金が原告の営業上の諸経費の支払にあてられた事実ないし内部に留保している事実も認められない以上、被告が法人税法第三一条の三の規定により、原告において右資金をその代表者に仮払して利用せしめているものと認定して右資金に対する利息を徴していない計算を否認し、原告の借入金利息の平均日歩金二銭七厘(利率については当事者間に争いがない)によつて算定した金九五、一九九円を原告の益金に加算した被告の決定は相当というべきである。

(五)  原告会社の代表取締役菊田善助に対する報酬が昭和二九年一二月までは月額金三〇、〇〇〇円のところ、昭和三〇年一月以降は月額四〇、〇〇〇円に増額して支給されていること、原告が福島市中町二九番地に本店を有し、資本金二〇〇、〇〇〇円の有限会社であり、従業員は一〇名程度、昭和二九年度の売上金額は金一五五、六一八、八一六円で、その営業規模はいわゆる中小企業であること、原告の取締役および使用人の報酬給料等の支給明細が別紙三のとおりであること等は当事者間に争いがないところ、原告は昭和三〇年一月以降における代表取締役菊田善助の報酬中月額三〇、〇〇〇円を越える部分を利益処分による賞与と認定することは不当であると抗争するのでこの点につき審究する。

(1) 証人渡辺武雄の証言によつて認められる別紙七の原告及びその類似法人における代表者の報酬額について検討してみると、原告を除く一一の会社のうち最高額は金三〇、〇〇〇円、最低額は金一二、〇〇〇円でその平均額は約金二一、九〇〇円であることが認められるところ、原告代表者の場合について見ると、前示類似法人の代表者中の最高額である金三〇、〇〇〇円から平均額の約二倍弱である金四〇、〇〇〇円に増額したことになつて、対比的には著しく高額に失するとの印象はまぬがれない。

(2) 当事者間に争いのない事実である別紙三の原告の従業員の給料等支給明細表について検討してみると昭和二九年度中の昭和三〇年一月より三月に至る期間内に給料の増額された者は原告代表者およびその家族のみであり、しかも原告は実質的にはその代表取締役たる菊田善助の個人会社であつて代表取締役ないし家族たる取締役やその従業員の給料は代表者の意思どおりに決定され得る状況にあることが推認できるから、代表者菊田善助の給料増額についても企業運営上公正妥当を期し難いといわざるを得ない。

(3) 原告代表者本人尋問の結果によれば、代表者の報酬は昭和三〇年一月の増額以来六年間据おかれたまゝであり、この報酬据置は事業の不振その他特別の事由に基くことも見出し得ない本件では、右代表者の報酬の増額は著しく多額であつたことが窺知し得られるのである。

(4) 証人渡辺武雄の供述に弁論の全趣旨を総合すると原告代表者菊田善助方は実質的に稼働力の少い家族の給与を含めて当時原告からの収入は約九万円近い収入となつていること。

以上の事実が認められるのであるから、これらを総合すると昭和三〇年一月以降原告代表者の給料を月額四〇、〇〇〇円として支給していることは原告の所得金額を減少させ、法人税の負担を不当に軽減させる結果になるので、被告が昭和三〇年一月以降の増額を否認し報酬月額を金三〇、〇〇〇円と計算し、これを超えて支給した昭和三〇年一月から三月までの計金三〇、〇〇〇円は利益処分による賞与とすべきであると決定したことは相当というのほかはない。

三、以上の諸理由によつて、原告が係争事業年度の所得金額算定上損金に計上した分ないし益金に計上しなかつた分を被告がそれぞれ否認して適正な計算方法のもとに算定した原告の係争年度総所得額は既に合計金七二八、五二九円に達することは明らかであるから、右金額の範囲内において原告の係争年度における所得額を金六〇六、六〇〇円と認定した被告の更正決定は正当であり、右認定部分の取消を求める原告の請求は理由がないので棄却すべきである。

第二、原告の昭和三〇年度における再更正決定の取消を求める訴について、原告が昭和三一年五月二三日その昭和三〇年四月一日より昭和三一年三月三一日にいたる事業年度における所得金額を金四五一、二〇〇円として申告したところ、被告は昭和三一年九月一七日これを金七一二、八〇〇円とする旨の更正決定をして原告に通知したので、原告はこれに対し同年一〇月一五日再調査請求をしたが、棄却されたゝめ昭和三二年一月九日仙台国税局長に審査の請求をしたけれども、昭和三三年八月二二日棄却の審査決定があつたこと及び被告は更に同日附でこれを金七四〇、七〇〇円とする再更正決定をなし、その頃その通知が原告に到達したこと等の事実は当事者間に争いがなく、本件記録によれば原告は昭和三三年一一月六日前記更正決定の取消を求める訴を提起し、昭和三五年五月十九日の準備手続期日において訴を前記再更正決定を取消す旨の請求に変更していることが認められる。

ところで行政処分の取消を求める訴において、原告が請求を変更した場合においては、変更された請求即ちあらたな訴について審判を求めるものであるから、変更された請求の対象となる行政処分たる再更正決定に対しても、再調査の請求ないし審査の決定を経た後でなければ提起することができないものと解すべきところ、本件につきこれを見るに、原告は再更正決定につき所定の再調査請求ないし審査請求をなしていないことを認めて争わないのであるから、本件再更正決定の取消を求める訴は同法第三四条第三五条第三七条所定の要件を欠く不適法な訴であつて却下すべきである。

以上のとおりであるから、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 檀崎喜作 舟本信光 山下薫)

(別表省略)

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